
図南鍛工株式会社 当社の気候変動への対応
当社は、1938年の創業以来、熱間鍛造技術を核に、日本のものづくりと社会インフラの発展を支える精密部品を提供してまいりました。長年にわたり培ってきた技術力と品質へのこだわりは、建設機械車両や産業機械といった基幹産業において、お客様からの厚い信頼をいただいております。
今日、気候変動は世界共通の喫緊の課題であり、その影響は社会経済システム全体に広がり、企業の持続可能性と企業価値に深く関わる重要な経営課題であると認識しております。当社の事業活動は、熱間鍛造というエネルギーを多用する特性を持ち、また主要な原材料である鋼材の製造過程においても温室効果ガス排出が伴うことを認識しており、これらを真摯に受け止めております。この認識のもと、当社は、気候変動をリスクとしてだけでなく、新たな事業機会と捉え、企業価値向上に繋げるための戦略的な経営課題として位置づけております。
このような認識のもと、当社はTCFD※提言にもとづき、気候変動が当社の事業にもたらすリスクと機会を適切に評価・管理し、その情報を透明性高く開示していくことを表明いたします。これは、当社に関わる全てのステークホルダーとの対話を深め、より強靭で持続可能な企業へと変革していくための重要な一歩です。本報告書では、TCFD提言が推奨する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの柱に沿って、当社の気候変動関連の取組みと情報開示を進めてまいります。
※TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)。G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により設立された気候関連財務情報の開示に関するタスクフォースで、企業等に対し、気候変動が及ぼす財務インパクトを把握し、開示することを推奨している。TCFDは、国際財務報告基準の策定を担うIFRS財団に監督機能を引継ぎ、2023年10月に解散した。
■TCFDフレームワークとは
TCFDフレームワークとは、TCFDによって公表された気候変動による企業への財務影響を開示するための枠組みのことです。このフレームワークは以下の4要素で構成されています。
要求事項 | 項目の詳細 |
---|---|
ガバナンス | 気候変動に対してどのような体制で検討し、それを企業経営に反映しているか。 |
戦略 | 短期・中期・長期的な気候変動によって、企業経営にどのような影響を与えるか。 |
リスク管理 | 気候変動のリスクについて、どのように特定、評価し、またそれを低減しようとしているか。 |
指標及び目標 | リスクと機会の評価について、どのような指標を用いて判断し、目標への進捗度を評価しているか。 |
1.ガバナンス
当社は、気候変動を含むサステナビリティ課題への対応を重要な経営課題の一つと位置づけ、サステナビリティに関する提案・協議を行う場として2025年4月に「サステナビリティ委員会」を発足しました。本委員会はエネルギー管理統括者である執行役員を委員長、経営企画室を事務局とし、エネルギー管理士、電気主任技術者や生産技術部、製造部のメンバーで構成されています。開催頻度は四半期ごととし、年に1回マネジメントレビューを実施します。
本委員会の主な役割は、サステナビリティに関する各種取組みの検討および部長会への四半期ごとの報告です。部長会から取締役会へは、四半期ごとに定例報告を行い、必要に応じて重要な事項については臨時で審議を実施します。また、取締役会は、施策や計画の実行可能性を評価し、経営戦略と統合した意思決定を行います。
報告対象となる主なテーマは以下の通りです:
- 外部評価対応(省エネルギー評価制度、CDP等)
- 環境パフォーマンスの管理(エネルギー使用量、GHG排出量等)
- サステナビリティ関連投資の進捗管理
- 気候関連リスク・機会の把握および評価
- サステナビリティ関連情報の開示に関する方針検討
当社は今後も、サステナビリティに関する取組みの実効性を高めるとともに、ガバナンス体制の継続的な整備・強化に努めてまいります。
気候関連課題に対するガバナンス体制図

2.戦略
■分析のプロセス
TCFD提言で示された各リスク・機会の項目を参考に、気候変動問題が当社の事業に及ぼすリスク・機会に関して、以下のステップで検討いたしました。
シナリオについては、1.5℃シナリオと4℃シナリオを用いており、政策や市場動向の移行(移行リスク・機会)に関する分析と、気象災害などによる物理的変化(物理リスク・機会)に関する分析を実施いたしました。

■気候変動シナリオ
1.5℃シナリオにおいては、脱炭素社会への移行に伴い、炭素価格の導入や再生可能エネルギーへの転換などの施策・規制が進むことによる事業への影響が考えられます。4℃シナリオにおいては、脱炭素社会への移行が進まず、異常気象の激甚化による洪水被害などの物理的な面での影響を想定しております。
1850~1900年を基準とした世界の平均気温の変化

1.5℃シナリオ | 4℃シナリオ | |
社会像 | 2100年までの平均気温上昇を2℃未満に抑えるため、脱炭素社会を実現する施策・規制が実施される世界 | 2100年までの平均気温上昇が約4℃上昇することにより、気候変動による異常気象の激甚化が進行し、物理的影響が生じやすい世界 |
参照シナリオ | 【物理】IPCC※¹ SSP※21-1.9 【移行】IEA※3 NZE※4 | 【物理】IPCC SSP5-8.5 【移行】IEA STEPS※5 |
対象 | 全事業 |
※2 SSP:共通社会経済経路(Shared Socioeconomic Pathways)
※3 IEA:国際エネルギー機関(International Energy Agency)
※4 NZE:ネットゼロ排出シナリオ(Net Zero Emissions by 2050 Scenario)
※5 STEPS:公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario)
■主要なリスクおよび機会と影響度
気候変動シナリオをもとに当社の事業に与えるリスク・機会を分析し、以下の通りまとめております。各リスク・機会の項目が事業に与える影響については、定性評価を実施したうえで、対応策を立案し、レジリエンスを高めております。
分類 | 考えられるリスク 機会が当社へ及ぼす影響 | 対象バリューチェーン | 財務 対象 | 時間軸 | 影響度 | 対応策 | |
移 行 リ ス ク | 法規制・政策 | 炭素税等の気候変動に関連する規制強化に伴う製造コストの増加 | 自社 | 費用 | 中期~長期 | 大 | ・中長期の温室効果ガス削減目標の策定および計画的な削減施策の実施 ・省エネ生産技術の開発や高効率設備の導入検討 ・再生可能エネルギーの利用拡大 ・燃料の脱炭素化に向けた水素やアンモニア利用の検討 |
技術 | 脱炭素に向けたエネルギーや設備の導入による製造・物流コストの増加 | 自社 | 費用 | 中期~長期 | 中 | ・段階的な設備更新の実施 ・補助金や減税制度など政府の支援策を活用した初期投資負担の軽減 | |
市場 | EV化の進展による内燃機関車両向け部品の需要減少 | 下流 | 売上 | 短期~中期 | 中 | ・EV化に伴い創出される新たな部品需要を的確に捉えた事業機会の創出 | 評判 | 気候変動への取組み遅れや情報開示不足によるステークホルダーからの評価の低下 | 下流 | 売上 | 短期~中期 | 中 | ・継続的なステークホルダーへの情報開示 ・電気加熱炉の導入拡大 ・燃料の脱炭素化に向けた水素やアンモニア利用の検討 ・鍛造技術の高度化による加工しろの削減 |
物 理 リ ス ク | 急性 | 自社拠点の事業活動停滞/停止による売上の減少 | 自社 | 売上 | 短期~中期 | 大 | ・ハザードマップを利用した用地の選定 ・BCP(事業継続計画)マニュアルの整備と従業員への訓練の実施 ・防災設備の強化 ・適切な保険への加入 |
慢性 | 従業員のヒートストレス増加に伴う生産性の低下 | 自社 | 費用 | 短期~長期 | 中 | ・安全衛生方針の策定と管理の徹底 ・ウェアラブル端末による従業員の熱中症・安全管理の効率化 | |
機 会 | 資源効率 | 省エネ設備の導入に伴うエネルギー消費の抑制による事業コストの削減 | 自社 | 費用 | 短期~長期 | 中 | ・最先端の省エネ技術の導入 ・工場でのIoTの活用によるエネルギー効率(電力使用量・稼働状況)のモニタリングと継続的改善の実施 |
エネルギー源 | 工場における製造プロセスの効率化に伴う製造コストの削減 | 自社 | 費用 | 中期~長期 | 大 | ・工場でのIoTの活用によるエネルギー効率(電力使用量・稼働状況)のモニタリングと継続的改善の実施 | |
製品及びサービス | 燃費改善・GHG削減のための軽量部品需要に対応することによる売上の増加 | 下流 | 売上 | 中期~長期 | 中 | ・鍛造技術の高度化 | |
市場 | EV・HV向け部品の需要増による売上の増加 | 下流 | 売上 | 中期~長期 | 大 | ・EV化に伴い創出される新たな部品需要を的確に捉えた事業機会の創出 | |
レジリエンス | 脱炭素の取組み訴求による資金調達機会の拡大 | 自社 | その他 | 短期~中期 | 中 | ・継続的なステークホルダーへの情報開示 ・CDP等の外部格付けへの対応強化 ・省エネ・再エネ技術に関する設備投資の積極的な実施 |
■気候変動のリスクと機会の検討における「短期」「中期」「長期」の定義
期間 | 背景 | |
短期 | ~3年 | 当社の年度予算および経営計画のサイクルに整合させ、足元の政策動向・燃料価格・顧客需要など、即時に財務影響が表れる移行リスク・機会を網羅するため。 |
中期 | 2030年 | 各国の温室効果ガス削減の短期目標となる年であり、炭素コストや規制対応投資が本格化する節目であるため。 |
長期 | 2050年 | パリ協定および日本政府のカーボンニュートラル達成年に合わせ、設備更改サイクルや物理リスクの顕在化等を含む長期的な事業影響を検証するため。 |
■影響度の定義
影響度 | 定義 |
大 | 売上の10%以上の影響 |
中 | 売上の3~10%の影響 |
小 | 売上の3%未満の影響 |
3.リスク管理
当社では、気候変動を含むサステナビリティ関連リスクを、サステナビリティ委員会が識別・評価・管理し、その内容を部長会に報告しております。リスクの優先順位は、財務への影響度および時間軸を踏まえて評価しております。
部長会は年1回、サステナビリティ委員会からリスク管理の状況について報告を受け、リスク認識および対応方針の意思決定を行っております。これにより、リスク発生時の損失影響の最小化を図っております。また、サステナビリティ関連リスクは、全社リスクを管理する部長会に共有されることで、全社リスクの一要素として統合的に管理しております。
取締役会は部長会から年1回、リスク管理の状況および対応方針について報告を受け、監督を行っております。加えて、必要に応じてリスクへの対応方針や重要なリスク対応策について助言・承認を行うとともに、施策や計画の実行可能性を評価し、経営戦略との統合を図る意思決定を行っております。
リスクへの対応策は、部長会で決定された方針に基づき、サステナビリティ委員会が具体策を検討し、各部署にて実行しております。
4.指標と目標
■気候変動のリスク・機会に関する指標
当社は、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3※の温室効果ガス排出量、および事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギーに関する指標を定めています。
■温室効果ガス排出量に関する目標(Scope1・2・3)
当社は、経営方針である「時代の変化に対応した経営」のもと、環境課題への対応を重要な経営課題の一つと位置づけ、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
気候変動への対応としては、温室効果ガス排出削減に向けた目標として以下の目標を掲げています。短期目標は、長期目標として掲げる2050年ネットゼロ・エミッションの達成を目指すための目標として立てられたものであり、ネットゼロ・エミッションを達成するために必要かつ実現可能な温室効果ガス削減量を踏まえて目標値を算出・設定しています。
〈短期目標〉2030年 Scope1・2において温室効果ガス排出量を63%削減する(2015年度比) Scope3において温室効果ガス排出量を42%削減する(2022年度比) 〈長期目標〉2050年 Scope1・2・3においてネットゼロ・エミッションを達成する |
■再生可能エネルギーに関する目標
〈短期目標〉2030年 電力消費量に占める再生可能エネルギー比率を30%にする |
今後は、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上などを通じて段階的に排出量の削減を図るとともに、国際的なイニシアチブとの整合性を意識しながら、気候変動への対応をより一層強化していく方針です。
※ GHGプロトコルでは、以下の分類で温室効果ガス排出量を開示することを求めているScope1: 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
Scope2: 他社から供給された電気の使用に伴う間接排出
Scope3: Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
4.指標と目標
<温室効果ガス排出量実績> (単位:t-CO₂e)
Scope | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | |
Scope1 | 5,229 | 5,553 | 5,097 | 4,393 | |
Scope2 | 8,547 | 8,404 | 7,102 | 6,190 | |
Scope1+2合計 | 13,776 | 13,957 | 12,199 | 10,583 | |
Scope3 | 1 購入 | – | 68,406 | 57,161 | 48,943 |
2 資本財 | – | 1,746 | 1,673 | 1,350 | |
3 その他燃料 | – | 2,486 | 2,225 | 1,928 | |
4 輸送(上流) | – | 115 | 95 | 83 | |
5 事業廃棄物 | – | 217 | 205 | 196 | |
6 従業員の出張 | – | 35 | 40 | 36 | |
7 従業員の通勤 | – | 57 | 65 | 62 | |
8 リース資産(上流) | – | – | – | – | |
9 輸送(下流) | – | 456 | 795 | 742 | |
10 商品の加工 | – | – | – | – | |
11 商品の使用 | – | – | – | – | |
12 商品の廃棄 | – | – | – | – | |
13 リース資産(下流) | – | – | – | – | |
14 フランチャイズ | – | – | – | – | |
15 投資 | – | – | – | – | |
Scope3合計 | – | 73,518 | 62,259 | 53,340 | |
合計 | – | 87,475 | 74,458 | 63,923 |
<集計範囲> 全社
<Scope1・2・3算定方法>「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位
データベース(Ver3.5)」(2025年3月、環境省)および契約電力会社の各年度の排出係数に基づき算定